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パノラマトーク02 “人間の営みのにおい”をさせつつ着飾る(後編)
  • 古館さん

  • 佐々木さん

2017年5月16日(火)19時〜21時開催
「古舘伊知郎が佐々木宏と、銀座なう。
」の抄録です。

GINZA PLACEの「common ginza」を舞台に、さまざまなつくる人たちを招いて「トークイベント+α」を発信していく「パノラマトーク」。第2回は「銀座、なう。」というテーマで、日本随一の“しゃべり屋”古舘伊知郎さんと、人気CMから国際的スポーツイベントにおける日本のプレゼンテーションまで、文字どおり“日本をCMする”クリエーティブディレクター、佐々木宏さんによるトークが行われました。

日時:2017年5月16日(火)19時〜
場所:GINZA PLACE内「common ginza」


古舘伊知郎(フリーアナウンサー)
佐々木宏(クリエーティブディレクター)

企画プロデュース:電通ライブ クリエーティブユニット 金原亜紀
編集協力:松永光弘
写真撮影:船本諒

■ど真ん中の言葉は、意外と強い

古舘:ぼくもキャッチフレーズのようなものをつくって、実況に乗せることはあるのだけど、どうしてもギトギトの幕の内弁当のように詰め合わせてしまうんです。でも、佐々木さんがつくる広告なんかを見ていると、「そうだ 京都、行こう。」にしても言葉がシンプルじゃないですか。そういう研ぎ澄まし方をしようと思ったら、どんどん言葉を捨てていくんですか?

佐々木:CMの世界では、捨てていったほうがいいとはよく言いますね。とはいえ、ぼく自身はコピーライターでもあるのだけど、あんまりコピーっぽいコピーが書けないほうなんです。サントリーの缶コーヒー「ボス」の広告でも、いざコピーを書くとなったら、やっぱり「ボス」という商品名が入っていたほうがいいとまず思ってしまう。で、短くしようとして、「ボス のむ。」とか書いてしまったりする。古いものだと、麻薬・覚醒剤乱用防止のポスターの「ダメ。ゼッタイ。」とかも、じつはぼくのコピーなのですが…、まあ、素人同然で、コピーライターの世界では、まったく尊敬されないコピーなんですけどね。

ただ、鍵となるような短い言葉が一つあると、広告キャンペーンとしては長く続きやすいんですよ。「そうだ 京都、行こう。」もそうだし、最近だと、宇宙人ジョーンズの「このろくでもない、すばらしき世界。」もそうですけど。

古舘:トミー・リー・ジョーンズさんが出ている広告ですね、あれは本当に素晴らしいですね。

佐々木:言葉はぼくじゃなくて、福里真一くんというCMプランナーが考えてくれたのですが、CMはもう11年も続いています。さっきの「お正月を写そう」も、ふつうの言葉ですけど、そういうど真ん中の言葉って、コピーライターとしてはちょっと恥ずかしいから、みんな意外と書かないんです。でも、そこをちゃんと見つけて言えると本当は強いんですよ。

古舘:なるほど。もうずいぶん前のものだし、佐々木さんのお仕事ではないけれど、「おせちもいいけどカレーもね!」も一世を風靡(ふうび)しましたね。ぼく個人で言うと、アサヒスーパードライも刺さりましたよ。「コクがあるのに、キレがある。」。


■もっと曖昧な部分を大切にしたほうがいい

佐々木:あのスーパードライのコピーは、ちょっとずるいところがありますね。ドライというかぎりは辛口なのに、それでも飲みやすいと言っているわけで、いいとこ取りです。でも、そういう両方あっていいという感じは、いまの日本には、とくにすごく必要な気がします。

古舘:「このろくでもない、すばらしき世界。」もそうですね。いまの世の中を見ていると、自分のなかにろくでもないものがあって、それが外部化されて、いろんな良くないことが起こっている。どこかの国のせいばかりにはしていられない、という気持ちもある。報道ステーションをやっているときは、ぼくもいつもそう思っていましたよ。でも、そんななかで、「このろくでもない、すばらしき世界。」と言われると、捨てたもんじゃないと思えます。その微妙さというか、いい意味で中途半端なところがとっても日本らしいと、ぼくなんかは思いますね。

佐々木:国内の様子を見ていても、最近はちょっと失敗した人を完膚なきまでにたたきのめすような風潮が社会にありますよね。その一方で、SMAPの解散一つとっても、たくさんの人たちが自分のことのように惜しんだりしていて、みんな仲良くできたらいいのにという気持ちもある気がするんです。ぼくとしては、後者の気持ちがもう少しうまく出てきて、世の中からけんかがなくなってほしいし、平和になってほしいと思う。キーワードは、「peace」。そのためには、「どちらでもない」という、もっと曖昧な部分を大切にしたほうがいいんじゃないかと思うんですよ。

古舘:と言いますと?

佐々木:例えば、新聞で世論調査をすると、だいたい「賛成」が何パーセントで、「反対」が何パーセント、「どちらでもない」が何パーセントみたいな発表をするじゃないですか。それをもとに報道番組なんかでも「結構、拮抗してますね」「反対が優勢です」なんて言って、どっちなんだ、みたいなことを問いかけたりする。でも、本当は、どっちかが正解ということじゃなくて、曖昧な部分に正解があったりするんじゃないかと思うんです。

ときどき、何パーセントが態度を決めていない、みたいな言い方をされることもあるし、そうなると、賛成か、反対かをはっきりしていない人は頭が悪いんじゃないか、みたいな空気になったりもするのだけど、そもそも、ぼくだったら調査の対象になっても自分の意見を言わないと思う。そういうことまで考えると、白黒はっきりさせることが、必ずしも正解とは言えないんじゃないか。むしろ、そこで「こうじゃなきゃいけない」と決めつけることが、けんかとか、対立とかを生む原因の一つになっている気がするんです。

古舘:そこはいちばん大切なところですよね。そういう話を聞いていると、自分が身を置いているマスコミの功罪の「罪」の深さをすごく感じます。どうしても、二者択一のほうが分かりやすいんですよ。善か悪かの二元論のほうが分かりやすい。でも、日本はそもそもが神仏習合で来た国ですからね。佐々木さんのおっしゃるとおり、基本的に二項対立的な考え方は合っていないとぼくも思います。悪く言えば、曖昧模糊ですが、よくいえば融通無碍(むげ)で、何とも言えない中庸の精神があるはずですから。


■「並木通り」はなぜ一流なのか

古舘:もっとも、神仏習合と言っても、信仰という意味では、いまの日本人がどのくらい仏教を信じていて、どのくらい神道を信じているのかは分からないですよ。だって、表参道を通るとぼくはいつも思うのだけど、日本人って年に1回、大みそかの夜から三が日にかけて、うわっと大挙して明治神宮に詣でるじゃないですか。年に1回だけですよ、お社に向かって詣でるのは。それ以外は一年中、表参道という道のほうに詣でてますよ、みんな。ブランドショップのほうに(笑)。

佐々木:特に表参道は再開発が進んで、いろんな施設やお店が次々とできていますからね。

古舘:再開発と言えば、銀座もこのところ、すごいことになってきていますよね。ここのGINZA PLACEはもちろん、すぐそこにはGINZA SIXがオープンしたばかりだし、数寄屋橋のところには東急プラザ銀座もできましたし。

佐々木:2020年のこともあって、至るところで再開発が進んでいますよね。でも、それがちょっと気になっているんです。ぼくのいちばんの興味は渋谷なのですが、どうやら渋谷駅の辺りに4つくらい大きなビルが建つらしいんです。もう工事が始まっていますけど、何年か前に初めてそれを聞いたとき、ちょっと嫌な感じがしたんですよ。というのも、汐留もそうだし、新宿副都心もそうだけど、再開発されてビル街になった街は、いわゆるビル風もすごいし、確かに現代的で整然としているのかもしれないけれど、歩いていても、あまり街という感じがしませんよね。

古舘:再開発された街というのは、なんかプラモデルの街に迷い込んでいるみたいなところがありますよね。『報道ステーション』をやっていたときも、毎日、テレビ朝日の4階から六本木ヒルズのけやき坂通りを見ていたのだけど、あそこは雨が降っているかどうかが分からないんです。古い町並みだと、雨が降っている質感のようなものがあるじゃないですか。でも、きれいに整備されたところだと、それが分からない。

佐々木:そうなんですよ。ぼくは渋谷がそうなってほしくないなと思ったんです。いまの渋谷には、いろんな職業の人がいるし、あちこちで若者がたむろしていたりもして、いい意味でわい雑さがありますよね。でも、ビル街になると、どうしてもオフィスワーカーが多くなるし、スクランブル交差点が日陰になったりして、せっかくのいいところが失われる気がするんです。

だから再開発するにしても、汐留や新宿副都心のようにするのではなく、ニューヨークのタイムズスクエアみたいに広告がいっぱいあって、経済情報なんかもどんどん入ってきて、いろんなものが渦巻いているような街にしてほしい。または、廃止した高架鉄道のをレールを残したまま散歩道にしたニューヨークの「ハイライン」(※注)のような、新旧ハイブリッドの開発にする、とか。

※ハイライン…ニューヨーク市のマンハッタンにある全長2.3キロメートルにわたる線形公園。廃止されたニューヨーク・セントラル鉄道ウエストサイド線の高架の一部を、レールなどを残しつつ、モダンな散策路としてリノベーションした。


古舘:いや、それは渋谷だけの話じゃありませんね。さっきもお話に出ましたが、銀座だって再開発が進んでいるし、丸の内だってどんどん変わっている。いまや東京全体が変わろうとしていますから。

佐々木:総合プロデューサーみたいな人がいないんですよ。ビル1棟をどうするかは考えるんだけど、この街をどうするかということはあまり考えられていない。せっかく2020年に大きなイベントがあるわけだから、いろいろと知恵を出し合って、本当にみんなが幸せになるような方向に進めていったほうがいいと思うんですけどね。

古舘:なかでも大切なのが、街のわい雑さとか、香りのようなものをちゃんと残すことだと。

佐々木:そう思いますね。渋谷なら絶対にスクランブル交差点はあってほしいし、ハチ公もいてほしい。雑居ビルもあって、いろんなものが入り交じっているからにぎやかになるんです。大きなビルが建つだけじゃ、入るのはチェーン店ばかりで、面白いお店もできなくなるし。ぼくは広告の人間ですから、やっぱり広告のスペースもたくさんあってほしい。

古舘:そのあたりのこととも関係があると思うのですが、この間ある人から、銀座の並木通りが、なぜずっと廃れずに一流の場所として残っているかという話を聞いたんです。あそこって資生堂の本社があるし、一流ブランドの店が軒を連ねているし、いわゆるポルシェビルとか、ウルワシビルとか、名所のようになっている建物もたくさんあるじゃないですか。確かにきらびやかなんですよ。不夜城のごとく、夜も眠りませんから。でも、それだけじゃないんです。あそこはね、かすかにドブのにおいがするそうなんですよ。歴史も長いし、古くなってきているビルも多いから、上下水道も年季が入ってきていて替えどきのものもあって、そこからちょっとだけ下水が漏れていたりする。人間の営みのにおいをさせつつ、着飾った街なんです。アラフォーの美しい女性が笑ったときの目尻の小じわ、みたいな(笑)。そこに色気が宿るわけじゃないですか、よく言うように。豆腐ようの話(前編リンク)じゃないのだけど、朽ちるか、朽ちないかというせめぎ合いのところがいちばんいい。街もそうですよね。

佐々木:いや、本当にそうだと思いますよ。ニューヨークにしても、道路からたくさん湯気が出ていたりして、人間が動いている感じがするからいいんです。見過ごされがちなところだけど、そこは忘れずに大切にしていきたいですね。

※ハイライン…ニューヨーク市のマンハッタンにある全長2.3キロメートルにわたる線形公園。廃止されたニューヨーク・セントラル鉄道ウエストサイド線の高架の一部を、レールなどを残しつつ、モダンな散策路としてリノベーションした。

(了)


【登壇者プロフィール】

古舘伊知郎(フリーアナウンサー)
1954年生まれ。立教大学卒業後、1977年にテレビ朝日にアナウンサーとして入社。『ワールドプロレスリング』などの番組の実況を担当し、その鋭敏な語彙センス、ボルテージの高さで独特の「古舘節」を確立。小学生から大人に至るまで、プロレスファンの枠を超えて絶大なる支持を集めた。1984年6月にテレビ朝日を退社。F1、バラエティ、音楽番組などの司会、テレビ朝日『報道ステーション』のキャスターなどを務めたほか、現在は、NHK『人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!』やテレビ東京『おしゃべりオジサンと怒れる女』、フジテレビ『フルタチさん』などの番組で活躍している。

佐々木宏(クリエーティブディレクター)
1954年生まれ。慶應義塾大学卒業。1977年、電通入社。新聞雑誌局を経てクリエーティブ局に転局。コピーライター、クリエーティブディレクター、クリエーティブ局長職などを経て、2003年7月に独立。同年、シンガタを設立。企業や商品のブランディングをはじめ、数多くの広告作品を手掛けている。2016年には、リオデジャネイロオリンピックおよびパラリンピックの閉会式で東京大会のプレゼンテーションをおこなう「フラッグハンドオーバーセレモニー」のプロデュースを担当した。主な仕事には、「ブラッド・ピット&キャメロン・ディアス」「白戸家シリーズ」などソフトバンクの全キャンペーンを13年、サントリー「ボス」を25年。「モルツ球団」「リザーブ友の会」「3.11歌のリレー」、トヨタ自動車「TOYOTA ReBORN」「ドラえもん」「ピンクのクラウン」「ECO-PROJECT」、JR東海「そうだ 京都、行こう。」、ANA「ニューヨークへ、行こう。」「LIVE/中国/ANA」、富士フイルム「樹木希林お店シリーズ」「お正月を写そう」、資生堂「UNO FOGBAR ビートルズロンドン編」、KDDI「合併」「auブランド」、三井不動産「芝浦アイランド」など。ADCグランプリ3回、TCCグランプリ、ACCグランプリ、クリエーター・オブ・ザ・イヤー賞ほか受賞多数。